Voice ドクターインタビュー
ドクターインタビューVol.1 腎臓高血圧内科医が目指す「新しい未来と医療」
- 2020.12.20
- ドクターインタビュー
女医を、医師を一生続ける。そう誓ったから私は走り続ける。
1 先生の現在のお仕事状況をお聞かせください。
大学病院の腎臓高血圧内科に勤務しています。主に外来診療と入院患者さんの診療、あとは維持透析患者さんの血液透析、腹膜透析それぞれの診療も行っています。あとは他科から、腎障害や高血圧のある患者さんのコンサルトを受けたり、必要に応じて血漿交換やLDLアフェレーシスなどの特殊浄化を行ったりしています。
2 先生が医師になられた理由と腎臓高血圧内科を選ばれた理由をお聞かせ下さい。
両親が獣医だったため、生物には物心ついたときから興味を持っていました。獣医も考えましたが、残念ながら、私、猫アレルギーなんです。
医学に興味があったのと、手に職をつけたいと考えて、医師になりました。
と、一言で話しましたが、医学部進学の道はとても険しかったです。特に高校生の頃は勉強が嫌いで、得意だった生物以外は赤点ばかりでした。未だに試験に追われる夢を見ます(笑)
どの科も興味深くて、専門を決めるのに非常に迷いました。腎臓内科で素敵な先生に出会い、「ここで勉強させてもらいたい」と思って腎臓内科医になろうと決めました。
3 どんな先生でしたか?
憧れる先生は何人かおりましたが、特に印象に残っているのが、お子さんもふたりいながら、研究や臨床もテキパキとこなされていた先生です。「仕事が大変だ」「育児が大変だ」などとおっしゃらずに、いつも笑顔でした。「こういう先生が働いているところで、自分も頑張りたい」と思って、入局させていただきました。
4 腎臓の病気の特徴は何ですか?
慢性腎臓病の原因には、腎臓自身の病気の場合と、腎臓以外の病気、主に糖尿病や高血圧といった生活習慣病などの場合があります。この生活習慣病が原因の場合が増加しています。自覚症状が少ないケースもあり、かかりつけのお医者さんから紹介されて初めて診察に来られると「腎臓が悪いなんて初めて言われました!」「そんなに悪いなんて思っていませんでした…」という方もいらっしゃいます。
健康診断で「血圧が高いですね」とか「尿検査でタンパクが出ていますよ」と言われたら、早めに受診をしてほしいです。
生活習慣病を背景とする場合は、じわじわ長い時間を掛けて腎臓が侵されるということを、皆様に知っていただきたいです。
5
透析を受ける患者さんは痛みやつらい症状の方も多いと思うのですが、患者さんに接していて
「これはもっとこうしてあげたい」と思う点はありますか?。
維持透析には、血液透析と腹膜透析、2つ透析の方法があります。血液透析の患者さんは週3回透析施設に来て頂いて、通常4時間、長い方ですと5時間くらい透析を受けていただきます。
患者さんは治療している時間にプラスして通院する時間が掛かってしまいます。仕事が終わってから夜に透析を受けたり、出張先でも透析を行わないといけないなど、負担は少なくありません。
6 出張先で透析できる場所を探すのは大変ですか?
症例経験は多くありませんが、困ったことはないですね。
最近では、透析患者さん向けのツアーを企画する旅行会社さんもあります。
旅先での透析スケジュールを含めながら旅行の予定を組んでくれます。
透析を始めたらどこにも行けなくなってしまうんじゃないか、と不安に思う患者さんも結構います。しかし、そんなことはありません。日本国内はもちろん、海外でも主要都市であれば全然問題ありません! オーストラリアやヨーロッパなどの旅行を楽しまれたという方のお話も耳にしますね。診断書や条件を書いて、何かがあった時にやりとりができるようにします。
7 腎臓を守るために大切なことは?
食事です。塩分過剰が一番のリスクになります。腎臓病の方には1日6グラム(食塩相当量)を守るよう指導しています。ちなみに、日本人男性の平均摂取量が1日11グラムです。腎臓病の方向けのお食事を薄味に感じる方もいらっしゃるようですが、身体にいい食事の味だよとお伝えをしております。
塩分が少なくても楽しめるようにだしを使ってうまみを出したり、塩味の代わりに酸味を足したり、お醤油の付け方などを栄養士さんと協力して指導しています。
8 実際に召し上がられましたか?
実際に検食で食べてみたところ、結構おいしかったですよ!
食べるのは生きていく上で大きな楽しみですので、食事がおいしくないと続かないですよね。
9 お願いランキング・カズレーザークリニック」にご出演されていらっしゃいましたが、普段ご活躍されている「先生」の立場を飛び出し、メディア出演に初チャレンジされた感想はいかがでしたか?
エリートな職業に就いている女性が集まる回に出演させていただきましたが、話した内容は、職種とは関係がないお話でした(笑)。
これでよかったのかな?と思いつつも、私も白衣を脱いでしまえば普通のひとりの女性です。同じように悩んでる人がいたら共感できるよう、本気でお話ができた事はよかったと思っています。
10 なかなかお医者さんのお悩みって聞くことができないです。ひとりの人間としての素顔を垣間みることができて、視聴者の方も親しみやすくなったのではないかと思います
そうですか、よかったです(笑)
病院で仕事をしていると、ほかの業界を知ることは難しいです。特にメディアに関わることはめったにないので、いい社会勉強になりました。「こうやって番組って作ってるんだ!」とか、うまい返しができなくて「やっぱりタレントさんってすごいんだな…」と、実感しましたね。
人に分かりやすく伝えるというのは、医療の現場でも不可欠な能力です。人に不快な感情を与えずに、的確に分かりやすく、できればユーモアをまじえながら伝えるって本当に難しいですね。
カズレーザーさんが本当に頭の切れる方で、切り返しが素晴らしい方でした。
すごくいい刺激になりました。
11 情報発信にもご興味があるとか。
医学の進歩で様々な病気が治療できるようになってきていますが、一番の治療は病気になる前の一次予防だと考えています。
実際に診療をしていると「こんなに悪いと思わなかった」「それが進退に悪いとは知らなかった」とおっしゃる患者さんが多いんです。
それにはまず「こういう病気があるんだよ」と言うことを周知することが重要だと考えています。今はインターネットで手軽に調べることができますが、発信者の顔が見えないので正しい情報なのかわからないのが難点です。女性医師が名前と顔を出して情報を発信することで、情報を広げることができたらいいなと思いますね。
病院にかかる前、受診してから入院しないで生活できるようにサポートしたいなと思います。
12 ご自身が「女医」という立場で苦労された経験などはありますでしょうか?
やっぱり一番多く言われるのは、「女性の先生だと男性の先生に話しづらい話ができる」ということです。医師のとも、女医プラスとして、女性目線プラス医師としての知識も併せて、商品開発だったり企業に意見を言ったり、よりよい商品やサービスを生み出せる可能性は強く感じております。
私の勝手なイメージではありますが、かつて、女性の社会進出が始まった頃の女性医師は、ガリガリ勉強してバリバリ働いて男社会の中でも戦ってのし上がって行くんだ!という、人並み外れたタフな女性しかなれなかったように思います。
今は女医さんの間口が広がった分、いろんなキャラクターの人が増えたと思うんですね。バリキャリタイプだけではなく、どちらかというと家庭に重きを置きつつ、仕事とのバランスを取って行きたい人も少数派ではないと思うんですよ。
ただ、それはもう、女性医師の世界だけじゃなくて社会全体の流れだと思っています。女性の社会進出が広がっている中で、働き方って多様性が求められていますよね。
人口減少している今の日本では、男性だけの労働力だと国力も落ちてしまう可能性があります。
妊娠・出産という女性にしかできないものを抵抗なく可能にしつつ、女性も周囲も心地よく働ける環境ができたら理想的ですよね。
私自身、自分なりのライフワークバランスを形成して、少しでもモデルケースになれれば嬉しいです。
13 医師免許は取得することが難しい免許だと聞きますが、国家試験の合格率って低いのでしょうか?
国家試験の合格率は90%程度なのですが、大学入試の倍率が非常に高く、進級も厳しいのでそこで脱落する方が多いです。医学部は6年間と長く、特に私学は授業料も高額です。両親はじめ周囲の協力あって医師になれたので、それを還元し続けて行かなければいけないな、と思いますね。
14 これからの夢は?
腎臓病の方も美味しく食べられる食事の開発に興味があります。
腎臓病の方は、塩分以外にもお食事の制限が多くあります。
腎臓が健康な方はカリウムを多めに摂取しても、適切に尿から排泄してバランスがとれます。しかし、腎臓の悪い方はカリウムの排泄がうまくできません。血中のカリウム値が高くなると、心臓に致死的な不整脈が起きてしまうことがあります。そのため、カリウムを多く含むフルーツや生野菜を食べ過ぎないように指導します。ただ最近は、低カリウムのレタスが開発されています。これはすばらしい!と思いました。このようにバイオテクノロジーが応用されていったら嬉しいです。
あとは、加工品の場合は、カリウム量の表示がないことが多いです。そういう表記が一般化されるだけでもありがたいですね。
もう1つはたんぱく質ですね。摂取量については諸説あるのですが、透析導入前の腎臓病の方には低たんぱく質のお食事を勧めています。たんぱく質が体内で消費されることによってでる老廃物は腎臓から排泄されますので、たんぱく質を制限することによって腎臓の仕事量を減らして、腎機能を長持ちさせようという狙いがあります。
腎臓病の方はすごく制限するものが多くて、大変なんですよね。それでもおいしいものを食べてもらえたらなって思いますね。
15 最後に。これから「女医」としてチャレンジしたいことは?
まずは医師として勉強を続けて、より正確な診療ができるようになるというのは、生涯の目標ですね。
女性としては、結婚したり子どもを産んだりして生活環境が変化しても、ちゃんと仕事を続けられるよう、うまく自分のライフスタイルを作っていきたいなと思っています。
あとは健康的で生活が豊かになるような商品開発もしてみたいです。企業さんから、アドバイスを求められることがあれば、力になっていきたいと思いますね。